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連載:アンサンブルの作り方 - 広瀬勇人

アンサンブルの作り方:広瀬勇人 第6回「曲全体の流れの仕上げ」

こんにちは。作曲家の広瀬勇人です。

コラム最終回となる今回は「曲全体の流れの仕上げ」を見てみましょう。

2018年11月26日

本番はあっという間に終わる

これまでの5回のコラムでは、練習の際にどのように演奏を整えてゆくか、といったポイントを中心に詳しく見てきました。


これは一つの曲を場面ごと(練習番号ごと、など)に細かく区切って、細部の演奏の精度を高めてゆくという作業になるのですが、どんなに精度の高い練習を積み重ねても本番でそれらの場面を演奏するのは1回のみで、本番では本当にあっけなく、練習してきた場面を次々に演奏して気がついたら曲が終わっていた、という風に感じる方も多いのではないかと思います。


こういった本番の演奏を第三者が客観的な耳で聴くと、とても良い演奏になる時もあるのですが、演奏している側の意に反して、以下の様にあまり良くない印象となってしまうことが多々あります。


●わずか5分程度なのに長く感じた
 (→場面ごとのつながりに欠け、ただダラダラと演奏している様に聞こえた)
●いくつかの箇所はよく練習している印象だが、その他の箇所の「演奏のアラ」が目立った
 (→場面によって完成度にムラがあった)
●前半盛り上がったが、後半は尻すぼみだった
 (→一番盛り上がってほしい所が物足りなかった)
●クライマックスが多すぎて、聴いていて疲れた
 (→場面ごとに盛り上がり過ぎた)

この様な演奏にならないため、ある程度合わせを重ねてきたら、細部を突き詰めていく練習と同時に、場面ごとに細かく切らず、いくつかの場面を続けて演奏して「音楽の流れを作る」練習も徐々に増やしていくと良いでしょう。


その際、以下の様なポイントに注意しながら、いくつかの場面を続けて長めに演奏すると良いでしょう。

曲を「ブロック」に分ける

改めてスコアを見て音源を聴き、曲全体を巨視的に見渡してみましょう。一つの曲の中にはいくつか違うテンポが変わる箇所や、曲想が変わる箇所があると思うのですが、曲を大まかにいくつかの「ブロック」に分けることが出来ると思います。


この「ブロック」を簡単に見分けるポイントとしては以下の様なものが挙げられます。

●テンポの変わり目(Andante→Allegroになった、など)
●調の変わり目(調号が変わった、長調→短調になった、など)
●拍子の変わり目(4/4から6/8になった、など)

(「序奏+ABA」や「急緩急」のように比較的分かりやすいものもあれば、いくつかの異なる曲想が自由に並んでいる曲もあると思います。)


さらにこれらの「ブロック」の中を見てみると、その中では「練習番号」が2~6つ位に区切られていると思うのですが(例:「頭~C」までが最初のブロック、「D~H」までが次のブロック、など)、そのブロックの中で「どの練習番号が最も盛り上がる場所か、聴かせたい場所か」を決めると、ブロックの中の音楽的な頂点がはっきりして、大きな音楽の流れを作ることが出来ます。


例えば、練習番号「D~H」までのブロックの中で、「G」が一番盛り上がるように演奏しよう、という風にメンバー内で意識を統一して演奏すると、「D, E, F」は「G」に到達するための「音楽的な伏線の箇所」ととらえられる様になり、「H」は「G」のクライマックス後の「余韻の様な箇所」という風にとらえられる様になります。



この様な意識で演奏すると、何も考えず「D~H」を続けて演奏した時に比べて、メンバー同士の共通認識が生まれ、自然と「G」に向かってそれぞれの音に「方向性」が生まれてきます。ただ単に「音楽的に整理された、バランスの良い演奏」から一皮むけた、もう一歩先の説得力が生まれてくるでしょう。

どの「頂点」が曲全体の「頂点」か

この様にそれぞれのブロックの「一番盛り上がる部分(=音楽上の頂点)」を意識すると、ブロック内の方向性が見えてくるのですが、次の作業として「頂点」同士の優先順位を決めておく、ということをおススメします。


例えば全体を5つのブロックに分けることの出来る曲を演奏する場合、「頂点」同士の優先順位をつけておかないと、1つの曲の中で5回同じ位盛り上がることになり、以下の様な弊害が生まれます。

●「盛り上がり」が多すぎて、聴いている人が疲れてしまう
●演奏している側も、体力・集中力がだんだん落ちてくる
●そもそも「頂点」が多すぎて、その価値が薄れる


各ブロックの「頂点」の中でも、本当に盛り上がってほしい「大頂点」の様なものは、1曲の中で一箇所か二箇所くらいにとどめておくのが効果的で、それ以外のブロックの頂点は「中頂点」「小頂点」の様にとらえておくと、本当に伝えたい部分が聴いている側に伝わりやすくなるのではないかと思います。

例:
ブロック練習番号頂点頂点の種類
頭~C「C」小頂点
D~H「G」中頂点
I~K「K」小頂点
L~O 「N」中頂点
P~Q 「P」大頂点

など


この様にすると、ブロック①~④はブロック⑤に行く為の伏線で、そのブロック⑤の頂点である練習番号「P」がこの曲の一番伝えたい箇所、という風に、一曲の中に「音楽的な道筋」が生まれ、音楽的な方向性と説得力が演奏に加わることでしょう。

今回のポイント!

今回のポイントは以下の通りです。

●ある程度アンサンブルがまとまってきたら、細かく区切らず、いくつかの場面を続けて演奏する練習を増やす。
●曲全体をいくつかのブロックに分け、そのブロックの中で最も盛り上がる「練習番号」を決めておく。
●各ブロックの「頂点」に優先順位をつけ、曲全体の中で一番盛り上がってほしい「大頂点」は1つまたは2つ程度にとどめておく。


これまで「アンサンブルの作り方」と題して、全6回にわたってアンサンブルを演奏する際に気をつけるポイントなどを、いくつか異なる角度から詳しく見てきました。


アンサンブルの演奏は突き詰めていくと本当に奥が深く、まだまだ書き切れないことも沢山ありますが、まずは入り口として、このコラムで書かせて頂いた様なことを参考に、様々な曲で経験を積み重ねてゆくと良いのではないかと思います。


このコラムの内容と関連して、実際の演奏例と共にアンサンブルの練習方法などを紹介させて頂いたDVD「生徒だけで作り上げる アンサンブル」の講師を務めさせて頂きました。機会がございましたら、このコラムと合わせてご覧頂き、練習の参考にして頂けましたら幸いです。


広瀬勇人

(広瀬勇人)

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