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音楽大学の吹奏楽の真価とは

CD《オール・芸大》収録作品について、伊藤康英さんにお話を伺いました。
2025年5月12日

昔は「藝大ブラス」と呼んでいた。あの頃は、藝大が吹奏楽に力を入れているようには思えなかった。いや、先生方は力を入れておられたのだろうが、学生のほとんどがオーケストラ志向であり、吹奏楽には見向きもしない空気があった。本番当日に、その日が本番であることを忘れていた学生すらいた(これは実話!)。

 アメリカの吹奏楽の世界は、大学の吹奏楽が牽引している。ならば日本でも本来、東京藝大のような音楽大学こそが、率先して日本の吹奏楽を導いていかなくてはいけない。ところがどうだ。Wikipediaで「日本の吹奏楽」を調べても、そもそも「音楽大学の吹奏楽」という項目すら立てられていない。これは甚だ大きな問題と言わねばならない。音楽大学に課せられた責任は、極めて大きいはずだ。

 だからこそ、藝大がCDのレコーディングをするとなれば、その演奏においても、選曲においても、世界に比肩しうるものでなくてはならない。夙に知られたイーストマン・ウインド・アンサンブルをも凌駕するものでなくてはならない。

 と、常々思っていたところに、今回のCDの話が届いた。拙作《ピース、ピースと鳥たちは歌う》が収録されている。「オール藝大」とのことで藝大ゆかりの作曲家の作品を集めたらしい。そんな中に私も加えていただけたことは、錚々たる藝大卒の作曲家の顔ぶれを思えば、誠に光栄なことである。

 ほんとうを言えば、この作品はアマチュアのために書いた。アマチュア向けとプロ向けとでは、オーケストレーションの思想が異なるため、果たしてこの曲で良いのだろうか、と思わぬでもない。なにしろぼくが藝大に入った1979年当時は「現代音楽」真っ盛りの時代であり、そんな藝大に身を置いた作曲家が、ハ長調の和音を5小節間も高らかに鳴らしてしまったら、破門になるのではないのか(!)

 と、そんな気恥ずかしさも感じつつ、拙作の音源を再生してみる。
これは、なんなのだろう。こんなにも極めて音の解像度が高く、そして確かな音楽の足取りが聞こえてきた。藝大生の「本気」がスピーカ越しにひしと伝わってくる。フレデリック・フェネル氏がイーストマン・ウインド・アンサンブルと共に数々の名演奏、名録音を精力的に生み出していったときのように、世界に誇れる音源が誕生した。その意気や、良し。
今回参画した学生諸君の名を心に刻んでおいてほしい。10年、20年ののちに、いや、ほんの数年のうちに、彼らの名の多くが日本の音楽シーンを彩るに違いない。

円熟したプロの奏者たちの音とは異なる、若々しさが迸る学生たちの演奏を、大井剛史氏の明晰なタクトが見事に束ね、私たちをドラマティックな音楽世界へと誘ってくれる。

さあ、これを機に、「音楽大学の吹奏楽」とは何か、その真価や意義をあらためて問うてみようではないか。

伊藤康英

指揮:大井剛史
発売日:2025年5月16日
販売価格:2,750円(税込)

《収録作品》

  • 明日に向かって / 岩井直溥
  • 嗚呼! / 兼田 敏
  • Lamentation To ― ~Theme & Variations~ / 保科 洋
  • 秘儀 Ⅳ〈行進〉 / 西村 朗
  • ピース、ピースと鳥たちは歌う / 伊藤康英
  • アスキリヤヴェ~ありしものへ / 長生 淳
  • 葵上 / 田村文生

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