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「音楽教師、最後の10年」 元・埼玉県立川越高校音楽部ー吉田寛先生

「音楽教師、最後の10年」:吉田 寛 先生 第7回 6年目『挫折、失意の底から』

全国大会を目標に掲げ、基礎練習も大幅に見直した6年目。「自分が試される年」と覚悟して臨んだコンクールだったが、結果はまさかの―

 

 全国大会を目標に掲げた6年目(2010年)。本題の前に、ご紹介しておきたいエピソードがある。

 新入部員の中に、K君という生徒がいた。
 音感が悪く、ピアノで弾いた音を正しく出せない生徒は毎年かなりの確率でいる。それでも歌になれば大概それらしく歌うものだったが、K君は違った。歌になってもまったく音程が変わらず、リズムをつけて言葉を喋っている感じだった。声域もよくわからなかったが、少し声が太めだったのでバリトンに入れることにした。
 実はK君は音が取れないことを自覚しており、歌がうまくなりたくて音楽部に入ってきたのだ。「先生、歌を教えてください。昼休みにみてもらえませんか。」と頼まれた。正直に言うと、ここまでの状態の生徒を教えたことはないし、どうなるかもわからなかった。自信は全く無かったが、やる気がある生徒を教えないわけにはいかない。
 彼は昼休み、毎日必ず音楽準備室にやってきた。そして本当に徐々にではあるが、音がとれるように変わっていったのである。
 川越高校の音楽の授業では、一人ずつみんなの前で歌を歌うテストがある。K君は1学期の歌のテストの時には、すでに他の生徒とあまり変わらないぐらいには歌えるようになっていた。1年間休まず通い続けて、大分うまく歌えるようになり、声が良いだけに、戦力になるようになってきた。3年の頃には他の部員と比べても遜色なく歌えるようになり、今では大学でも合唱団で歌っている。本人のやる気があれば変われるんだなあと実感させられた。


 話を本題に戻す。この年からヴォイストレーニングも自分で行うことを決めた。3種類の基礎トレーニングを作った。日替わりで約30分かけて生徒だけで行う内容である。今でも音楽室の柱に、字の丁寧な生徒が模造紙に書いたトレーニング内容が貼ってある。また、時間がとれる土曜日などにはプラス30分の私が指導する発声練習を入れた。去年までとは基礎練習の部分が大きく変わったのである。これが功を奏するか否か、試される年だと感じていた。


 コンクールは、くじ運悪く出番は1番。それでも部員たちは早起きをしての練習を重ね、練習の成果をしっかりと発揮した演奏をしてくれた。

 結果は、銀賞。
 それもかなり下の方だった。しかも2人の審査員から順位が付く最低ラインの25位を付けられてしまった。

 自分が教えた発声が間違っているのだろうか? 私の音楽は通用しないのだろうか? ひどく落ち込んでしまった。このまま川越高校を指導していていいのだろうか? 信用してついてきてくれた生徒達に申し訳なく、なんと言ったらよいのだろうか、どんな顔をして会ったらよいのだろうかと悩み続けていた。全て自分でやろうと決めて、それが試される年の結果がこれだったのだ。絶望的な気持ちになった。


 次の朝、何気なく見た音楽部のホームページのゲストブックに、ある方(Aさん)のコンクールの演奏の感想が書かれていた。長くなるのでここには書けないが、この方に救われたのである。読みながら涙を流していた。

 コンクールの練習では全員そろったことがほとんどなかった部員達だったが、次の日の練習には1・2年生全員が集まっていた。昨日からの自分の気持ちと、Aさんの感想を生徒の前で話した。不覚にも生徒の前で、また泣いてしまった。

 

 もう一度チャレンジする気持ちが私の中にも芽生えた。自分の音楽を信じ、自分の発声を信じ、これからもやっていこうという気持ちになれたのである。

元・埼玉県立川越高校音楽部ー吉田寛先生

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