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連載:アンサンブルの作り方 - 広瀬勇人

アンサンブルの作り方:広瀬勇人 第5回「フレキシブル・アンサンブルのバランス整理」

こんにちは。作曲家の広瀬勇人です。

今回は、アンサンブルの中でも近年演奏される機会が増えて来た「フレキシブル・アンサンブル」に焦点をあてて、その練習の際の注意点などを見てみましょう。

2018年10月31日

フレキシブルの楽譜を演奏する際の注意点

フレキシブル・アンサンブルの演奏を聴くと、何か雑然として、整って聴こえないという印象を受けることがよくあります。これには様々な理由があると思うのですが、突き詰めて考えていくと、

・「バランス」が悪い
・「音色」が合わない

大まかにこの二つの問題が演奏上の大きな壁になっていることが多いと感じます。


様々な組み合わせで演奏出来るフレキシブルの楽譜はとてもありがたい存在なのですが、同時にこれら二つの問題ともつき合っていくことになるので、実際にフレキシブルの楽譜を使って演奏する際は、これらの解決策を常に意識しながら練習を積み重ねると良いでしょう。

バランスが悪い→バランスを整える

フレキシブル・アンサンブルのバランスを整えるには、以下の2つの方法があります。


●役割を整理し、適切な音量設定を行う

このコラムの第3回「楽曲の理解」でアナリーゼの重要性を詳しく見てきましたが、楽曲をアナリーゼし「役割を整理して適切な音量設定を行う」ことが、フレキシブル・アンサンブルの良い演奏とそうでない演奏を分ける最初の大きなターニングポイントとなります。


曲の中のそれぞれの場面で、まず

①メロディと伴奏を分ける
②メロディの中の「主旋律、対旋律、合いの手」
伴奏の中の「バス、バス以外のハーモニー、リズム」を分ける
という風に二段階に楽曲をアナリーゼして(①を飛ばして②からでも良いです)、その後以下の様な優先順位で音量設定を行います。

メロディ伴奏
主旋律
対旋律
合いの手
バス
バス以外のハーモニー
リズム

この様に演奏を整理するだけで、フレキシブル・アンサンブルのバランスの悪さのおよそ7~8割位は解消されるのではないかと思います。

●「鳴らない音域」「鳴り過ぎる音域」を考慮し、調整する

それではフレキシブル・アンサンブルの残り2~3割のバランスの悪さはどこから来ているのでしょうか。


どの楽器にも楽器の特性上の「鳴らない音域」「鳴りやすい音域」「鳴り過ぎる音域」といったものがあり、フレキシブルではこれらがバランスを悪くする要因となっていることが多く見られます。


例えばサクソフォン四重奏や金管8重奏などといった同族アンサンブルの作品では、作曲家は「この楽器のこの音域は鳴りやすいので主旋律に回そう」「この音域は鳴り過ぎるのでハーモニーパートにはしないでおこう」などという風に楽器の特性を考慮しながら曲を書き進めていきます。

その結果、 演奏者が楽譜通りに演奏すればバランスが大きく逸脱することは少なく、特に何も意識しなくても「何となくバランスの良い演奏」が出来てしまう、ということになります。


これに対して、例えばフレキシブル・アンサンブルで「パート2」が「主旋律」を演奏する場面では、同じ音でも演奏する楽器によって

クラリネットの場合:「鳴りにくい音域」にあたるので、音量が小さく聴こえない
トランペットの場合:「鳴りやすい音域」にあたるので、適切な音量で演奏出来る
ホルンの場合:「鳴り過ぎる音域」にあたるので、音量が大きく伴奏との差がつき過ぎる

といった様な音量上のデコボコが生じて、先程の「役割と音量設定」をしたにも関わらずバランスが悪い状況が出てきてしまいます。


演奏していて「鳴りやすい」音域の場合はあまり問題にならないので、自分や周りの楽器が「鳴りにくい」「鳴り過ぎる」音域に入っている、と感じた場面では、例えば以下の様に音量を微調整すると良いでしょう。

◆主旋律が「鳴りにくい音域」の場合:
→主旋律はもう一段階音量を大き目に(mf→fなど)
 伴奏パートは更に小さめに演奏する

◆主旋律が「鳴り過ぎる音域」の場合:
→主旋律はよく聴こえるのであまり大きく吹こうとせず、
 伴奏パートを若干大き目に演奏することで主旋律との音量差を少なくする

(伴奏パートに関しても、同様に音量バランスの大小を微調整すると良いでしょう。)

音色が合わない→音色を寄せる

フレキシブルの楽譜は、「様々な楽器の組み合わせで演奏出来る」というメリットと、「様々な組み合わせで演奏出来るからこそ音色が合いにくい」というデメリットの両方を合わせ持った楽譜、と言えると思います。この「デメリット」の部分をなるべく見せない様、以下の様に工夫すると良いでしょう。


●「編成組み」で、可能な限り同族系の楽器同士で組んでおく

「問題になりそうな芽は早めに摘んでおく」という意味で、編成を組む段階で「木管系フレキシブル」「金管系フレキシブル」という風に、可能な限り同族楽器同士で組んでおくと、音を出す原理が似ているので必然的に音色が合いやすくなります第1回「編成組み」で見て来た通りです。)


ただし以下の楽器は音色上、別の系統に入れても比較的音色を合わせやすいでしょう。

サクソフォン:金管系に入れても比較的音色が合いやすい
ホルン:木管系に入れても比較的音色が合いやすい
ユーフォ二アム:サクソフォンが入っている木管系であれば比較的音色が合いやすい

●「音の形」を揃える

前回第4回「演奏の整理」で「音の形」の3要素について触れました。

「アタック」:音を開始する際のタンギングの強さ
「コア」:楽器を鳴らしている際の音の長さや太さ
「リリース」:音を切る際の処理の仕方


木管と金管ではそれぞれ「音の形」に以下の様な特長があります。

木管:「アタック・コア・リリース」が平らな1本の長方形の形になる傾向にある
金管:「アタック」がボコッと大き目、「コア」がアタックより細く「リリース」が丸く切れる


木管金管が混在するフレキシブル・アンサンブルで、例えば、テナーサックスとトロンボーンが同じ「ハーモニー」の役割を担当する場面では、テナーサックスは上記の様に金管の形を真似て、トロンボーンは木管の形を真似る、という風に「音の形」を意識してそれぞれ歩み寄ると、不思議と音色が合ってくる、或いは合っている様な錯覚?が生じて、「音色の違い」による違和感が薄くなっていきます。是非試してみて下さい。

今回のポイント!

フレキシブル・アンサンブルを演奏する際、以下の二点を注意しながら練習を積み重ねましょう。


●バランスが悪い→「役割の整理と音量設定」をした上で、
 楽器の「鳴らない」「鳴り過ぎる」を考慮し、音量を微調整する

●音色が合わない→「編成組み」の時点で可能な限り同族楽器同士で組み、
 異なる楽器同士で「音の形」を寄せ合う


次回第6回が最終回となりますが、これまでの総括として「曲全体の流れの仕上げ」と題して、本番を意識して1曲を通して聴いた際の演奏ポイントを詳しくみてみたいと思います

(広瀬勇人)

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