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大反響コラム 第2回!

第2回 マウスピースを唇に押し付ける力はどのくらい?

「ハイF」を鳴らす時、唇には2リットル+500mlのペットボトルが乗っている?!

 皆さんは、スポーツ科学という学問をご存知でしょうか? これは「アスリートの運動を科学的に分析し、最適な動作や練習方法を探る学問」です。この学問の発展がスポーツ競技者の成績向上を支え、例えば野球においては高校生が160km/hを超える速球を投げる時代になりました。このスポーツ科学のアプローチを音楽家に応用出来ないか、と日々奮闘している研究者がいます。

 今回のコラムは、そうした取り組みを行っている研究者の活動を紹介します。

 第1回コラムはこちら


金管楽器で音を鳴らすには?

 金管楽器の演奏では、奏者はマウスピースに唇をあて、息を出しながら唇を振動させます。この振動が楽器に共鳴することで、トランペットの輝かしい音、ホルンのやわらかい音、テューバの重厚な音などが生み出されます。演奏する音量や音の高さ、音色に応じて奏者は唇の振動を変化させています。前回のコラムにも書いたように1秒間に1,000回以上唇を振動させることもあり、金管楽器演奏では唇の振動のコントロールが重要なポイントとなります。この唇の振動が上手くいかないと、音の高さを間違って鳴らしてしまったり、最悪の場合は音そのものが鳴らなくなってしまったりします。

 

 この唇の振動をコントロールする要素のひとつに「マウスピースを唇に押し付ける力」があります。これを仮に「マウスピース力」と呼びましょう。このマウスピース力に関して、プロ・アマチュア問わず奏者の間では様々な意見が飛び交っています。「高い音を演奏するときマウスピース力は強いほうが良い」「高い音でも低い音でも同じ」「プロはアマチュアよりも弱いマウスピース力で演奏している」「プロもアマチュアも同じ」etc…。私は多くの奏者から意見を聞いてきましたが、答えはその人の数だけありました。そして注目すべきは、そのどの意見もが奏者自身の経験によるもの、またはプロ奏者や他の演奏家からの言い伝えによるもので科学的根拠のないものだったということです。実験によって計測されたマウスピース力をもとに語られる意見は、ひとつもなかったのです。

 

 実際は、どのくらいの力なのだろう?プロとアマチュアに違いはあるのだろうか?我々の研究グループは、これらの答えを探るために研究機材を開発してさまざまな実験を行いました。

 
音の高さとマウスピース力の関係

 はじめに取り組んだ実験は、音の高さとマウスピース力の関係を明らかにする実験です。プロのホルン奏者を12名集めて、2オクターブのヘ長調の音階を演奏してもらいました。低い音から「ハイF」と呼ばれる高い音まで、1音を1秒ずつ、奏者の演奏しやすい音量で音階を演奏したときの力を計測しました。実験前に、参加者にアンケートを取りました。

 ・音が高くなるにつれマウスピース力が強くなるだろう…6名

 ・音の高さに関わらずマウスピース力は一定だろう  …6名

 ・音が高くなるにつれマウスピース力が弱くなるだろう…0名

 興味深いことに、プロ奏者の間でも、音の高さとマウスピース力の関係については、意見が分かれていたのです。果たして結果は、参加したプロ奏者12名全員、音が高くなるにつれマウスピース力が強くなっていました。発揮される力にばらつきはあるものの、最高音の「ハイF」では平均して25N(ニュートン)、約2.5kgの重さが唇に加わっていることがわかりました。この結果を受け、「音が高くなるにつれマウスピース力は強くなる」と答えた奏者は「25Nもの強い力がかかっているとは思わなかった」と数値に驚き、「音の高さに関わらずマウスピース力は一定」と答えた奏者は、自身の感覚と実際の値とのズレに驚いていました。感覚やイメージの上では「音の高さに関わらずマウスピース力は一定」でも、物理現象としては「音が高くなるにつれてマウスピース力は強くなる」が真実だったのです。この実験から、金管楽器演奏では、演奏する音の高さに対して奏者は無意識下にマウスピース力を調整していることが示されました。

 
プロ奏者とアマチュア奏者に違いはあるのか?

 続いて、プロ奏者とアマチュア奏者のマウスピース力を比べる実験を行いました。それまで私はマウスピース力に関して、「プロと比べて初心者は余分な力が入っている」とか「プロは小さいマウスピース力で演奏できるから、疲れず長く演奏できる」という噂を耳にしたことがありました。この噂は本当なのでしょうか? 真実を明らかにするため、先ほどのプロ奏者12名に加え、アマチュア奏者12名(ホルンを始めて間もない中学生6名と高校生6名)にご協力いただきデータの比較を行いました。

 実験は、両群が演奏できる3つの音(高い音の「ハイBb」、ハイBbから4度低い「F」の音、さらに1オクターブ低い「F」の音)をそれぞれ「2秒演奏して2秒休む」という課題を何度も繰り返し演奏してもらいました。

 計測の結果、演奏した3つの音すべてにおいて、マウスピース力に差はないという結果が得られました。つまり、涼しい顔をして演奏するプロ奏者も、がんばって演奏する生徒も、同じ音であれば同じ程度のマウスピース力で演奏しているということです。皆さんどうですか?意外な結果でしたか?この話を大学の講義やセミナーですると、金管楽器を演奏したことがある人ほど、よく驚いてくれます。実際、私もこの事実をはじめて知ったときは驚きました。

 
高い音が鳴らず困っている人へ

 こうした研究から、金管楽器演奏では、演奏する音の高さに応じてある程度決まったマウスピース力を発揮する必要があることがわかってきました。中学校や高等学校で金管楽器演奏をしている生徒の中には、「マウスピースを強く唇に押し付けてはいけない」と意識するあまり、高い音を鳴らす際に必要なマウスピース力が不足してしまうことで音を鳴らせていない可能性があります。これは一例ですが、「ハイF」が鳴らずに困っていたある女子高校生に、マウスピースをいつもより強く唇に押し当ててもらったところ、決して綺麗な音ではありませんでしたが実際に「ハイF」を鳴らすことができた、という経験があります。今まで鳴らなかった音が鳴らせたので、その女子高生は大喜びしていました。

 高い音が鳴らない原因は今回ご紹介したマウスピース力だけではありませんが、高い音が鳴らせずに困っている中学生、高校生の方は、マウスピース力をいつもより強めに、ホルン演奏における「ハイF」の場合には2.5kgのペットボトルの重さをイメージしてマウスピースを唇に押し付ける力を試行錯誤していただくことで音が鳴るかもしれません。

 

 いかがでしたか? 「感覚やイメージ」に科学的に切り込むことで、実際には何が起こっているのかが明らかになる。とても面白い研究だと思いませんか? 今後も研究の成果をお伝えしていけたらと思っています。

 

 皆さんから平野先生へのご質問・ご相談を随時受け付けております。

 下記のHPからお気軽にご連絡ください。

 
プロフィール

平野 剛(ひらの たけし)

1983年生まれ 埼玉県出身

「演奏家の体の使い方」を研究するとともに、ホルン奏者として演奏活動も行っている。将来的には、音楽に科学的な研究を融合させた「音楽演奏科学」とも呼べる新しい学問領域の確立を目指している。

 

専門分野

運動制御学、神経生理学、バイオメカニクス、身体教育学、健康応用科学

 

学 歴

2009年

東京大学大学院 総合文化研究科 修士課程修了 修士(学術)

2013年

大阪大学大学院 医学系研究科 博士課程修了 博士(医学)

 

平野剛HP(こちらをクリック)

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